はじめに
Amazon、eBay、 楽天、Shopify、WooCommerce、コロナ渦において世界で拡大し、今でやあらゆる企業が注目する「越境EC(E-commerce)」。越境ECはサイト作成後数分後から販売開始でき、世界の市場からの新たな売上機会になるといった良い面は紹介されます。反面、現地の税金や、様々なコストについてはあまり共有されていません。VATなど現地の税金は、販売者が現地の購入者に課税・徴収しますが、越境ECの場合でも課税・徴収・申告の場合は発生します。
税理士や弁護士等、国内の専門家が海外の税務や法務の知見が有る訳ではありません。
このコラムでは、越境ECの税務面について、豊富な経験を有するオプティ株式会社が「越境EC税務ナビ」としてQ&A形式で提供します。当越境EC税務ナビが、越境ECを考えている様々な企業のお役立ちになれば幸いです。
【Q】海外進出にもいくつか形態があると聞きました。例えば子会社を作るとか、支店だとか、駐在員事務所だとか。。差がよく分からないので教えてもらえますか。
【A】「海外進出」と一言で言っても、同じようには論じられません。
たとえば、海外で法人を設立する現地法人という形態もあれば、海外のAmazonで物品を販売するような形態もあります。そこでこの記事では各種の海外進出の種類について論じ、それぞれのメリット・デメリットを説明したいと思います。
下記にそれぞれの海外進出の方法について述べます。
iPhoneアプリやクラウドサービスなど、いわゆるデジタルサービスの場合、そもそも物理的に人を採用したりする必要なく、売上を上げることが可能です。例えばiPhoneでのゲームアプリ会社は全世界での売上高が数千億円を突破する会社もありますが、必ずしも世界各地に拠点があるわけではありません。
データ販売やクラウドサービスの販売等は、開発までに初期投資が必要なものの、一度開発されたらその後は固定費であるサーバー代等を除けば、後は殆どが利益となります。このため、もっとも新しく、もっとも効率的な海外進出の一形態であると言えます。
Google, Facebook, Apple, AmazonはGAFAと呼ばれており、高い成長率と爆発的な売上高を有しています。ITを駆使したデータ販売/クラウドサービス販売は間違いなく一つの海外進出の方法であり、もっとも成約を受けない海外進出の形態であると言えるでしょう。
Facebookのユーザーは2017年7月現在、世界全体で20億人を突破しました。Facebookは今では世界で最も大きな人口を有する中国をも超える最大の人口の国であるともいえます。このように、データやクラウド等での販売は当たりはずれがありますが、デジタルサービスの海外展開は、当たったら最も利益を出すことが出来る海外進出方法だと思われます。
但し、デジタルグッズの販売のケースであっても、各国での税務登録や税務申告の義務から逃れられる訳ではありません。例えば、デジタルグッズを欧州の消費者向けに販売する場合、後述するVAT番号を登録し、VAT申告を実施しなければなりません。簡単に海外で稼げる時代にはなりましたが、現地での税務申告は必要となるため、各国毎の税ルールを把握する必要があります。
参考記事:ミクシィ、モンスト勢い衰えず売上高2000億円突破--北米では出鼻くじかれる
参考記事:Web業界の牽引役AGFA(Apple、Google、Facebook、Amazon)の2016年決算と各社の特徴を解説
輸出
多くの製造業では海外進出の第一歩として輸出を行います。その後、輸出額が増加していくにつれ、販売手段を変更していきます。輸出とは日本から外国の企業に物品を販売する方法です。
このため、当然ながら有形物を販売することになります。(無形物の販売の場合、前述の通り、データだけで販売できます。)
メリットとしては、進出先で製造拠点を設立するコストを節約することができます。逆にデメリットとしては、輸送コスト(関税等含む)が掛かる点が挙げられます。加えて、現地のパートナー企業である代理店を利用して販売を行う場合、マーケティング等の管理が行き届きずらいという点が挙げられます。
貿易は、現地法人等を設立する前段階に、テストマーケティングを行う等のフェイズでもよく利用される方法です。
参考:貿易とは(ジェトロ)
(参考情報)海外ECサイト販売による輸出
ターンキーとは、受注側が仕様書から設備の完成状態までの工程を一環して請け負うサービスを指します。事業施設の設計・建設から試運転に至るまで、全ての業務を一括して1つの企業や1つの企業グループが請負、直ちに運営が開始できる状態で発注者に事業施設を引き渡す形の契約を言います。
分かりやすく言うと、ターンキー契約とは鍵を掛けたら車が動く状態にしておくということです。プラント建設でのターンキープロジェクトは、プロセス技術を海外に輸出することであり、ある種輸出と同様と考えられます。
ターンキー(Turn-key)には、フルターンキー契約(Full turnkey contract)とセミターンキー契約(Semi turnkey contract)の2つの種類があります。
近年では「ターンキー契約」という用語に代わって、EPC(Engineering, Procurement, Construction)契約という呼称が用いられています。更にはこれに建設管理(Management)を含めたEPCM契約というものもあります。これらは「設備一括請負契約」での売り手の業務と責任の範囲をより明確に表現する用語として、今後より一般的に用いられることと思われます。
ターンキー契約(またはEPC契約)は設備の据付・試運転までを売り手側が引き受けて、買い手に引き渡す契約ですが、フルターンキーが土木・建築工事まで含め工場建設に必要なほぼ一切の資機材と役務を売り手が提供するのに対し、セミターンキーは通常、土木・建築工事は買い手の範囲となります。どちらを選ぶかは、買い手側の工場建設に投与できる技術者・管理者の有無と能力、また買い手側の採算上の判断という二つの事情によるでしょう。
出所:ジェトロ https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-010930.html
ターンキー(Turn-key)契約のメリットとデメリットは下記の通りです。
メリット
FDIが現地政府によって制限されている時は最良の手段です。
オペレーショナルカントリーリスクが高い国の場合は有効です。
デメリット
技術流出のおそれがあります。
顧客が競合になるおそれがあります。
FDI(直接投資)ではないにせよ各種税務上の問題点をクリアにしないといけない。 (PE等)
このようにターンキーでは、業種によっては非常によく使われる手法で、プラント建設などでよく利用されます。
ライセンスアウトとは、ライセンサーがライセンシーにライセンスを供与することです。すなわち自社のライセンスの利用権を他社に販売します。フランチャイズとライセンスビジネスは異なりますが、似ているようにも見えます。
ライセンスビジネスの場合、ライセンスを取得した側(ライセンシー)はフランチャイズ権利を取得した側(フランチャイジー)と比べてより自由なビジネス展開が可能となります。
ライセンスビジネスはフランチャイズと比較して自由度が高いのですが、逆にデメリットとして、本部からのバックアップ体制が無いためノウハウを身につけるのが大変であるという点があります。この点、フランチャイズに分があります。すなわち、海外進出を行う上で、フランチャイズほど定期的に手厚くサポートをする必要が無いので、その点ライセンス保有企業側は楽であると言えます。
ライセンスアウトを行う場合として、フランチャイズ同様、直接投資が出来ない国でのビジネスなどに有効です。また進出のコストを負いたくない場合等に有効です。
逆にデメリットとして海外事業に対する管理がしにくくなります。加えて技術ノウハウの管理が難しくなります。ライセンサーと異なる企業名で、海外で同様のビジネスをされるので、将来的に自社が進出しようとしたときでも、強大化したライセンシーと競合するかもしれません。
フランチャイズ契約ではフランチャイジーはフランチャイザーによる規約に縛られます。ただし、メリットとして、独立するまでのフォローや集客のためのノウハウを教わることができるので、失敗する確率が低いというメリットがあります。
なお、フランチャイズで有名な企業として、マクドナルドやセブンイレブンなどがあります。(下記)
国内でフランチャイズ展開をしている企業でも、海外進出の際には異なる進出形態という場合も多くあります。
ランク フランチャイズ名 国 産業 1 McDonald's 米国 ファーストフード 2 KFC 米国 チキンフランチャイズ 3 Burger King 米国 ファーストフード 4 SUBWAY® 米国 サンドイッチ 5 7 Eleven 米国 コンビニエンスストア 6 Hertz 米国 レンタカー 7 Pizza Hut 米国 ピザ 8 Marriott International 米国 ホテル 9 Wyndham Hotels and Resorts 米国 ホテル 10 Hilton Hotels & Resorts 米国 ホテル 出所:Franchise Direct "Top 100 Global Franchises - Rankings (2017)"
このような取り組みであるため、日本企業がフランチャイザー側になるとき、ライセンスアウト同様進出のリスク・コストを負わないで済みます。また、フランチャイジー側でもフランチャイズのブランドを利用できるため、うまく行けばフランチャイザー側、フランチャイジー側共に早期にビジネスを拡大することができる取り組みです。
ただし、異なる国で統一したブランドや品質を維持することが難しく、また国ごとの様々な要因をクリアしなければいけません。フランチャイズ契約はサービス業で多く利用されますが、例えばイスラム圏ではハラルフードで無ければ成功しません。加えてフランチャイジー側がフランチャイズの品質を確実に保つとも限らないため、これら品質とブランドの管理が最も難しいポイントだと思われます。
駐在員事務所とは、情報収集、市場調査、物品やサービスの購買、 広告宣伝などの活動を行うことができる事務所ですが、収益をあげる活動や直接的な営業活動を行うことができない取り組みです。
実際上は、営業活動を行い、契約の時には本社経由とするような駐在員事務所も多く存在します。
メリットとして、合弁会社や独資での子会社設立の場合、法人登記を行ったり従業員を雇ったりする必要が発生しますが、そのような煩わしさがない点です。
デメリットとしては、営業活動ができない点です。しかし、前述の通り、契約の時には本社経由とすることで、実際は営業活動を行っている企業もあります。
また、長期出張によりホテルの一室を使って営業活動を行うような場合もありますが、このような場合PE(Permanent Establishment : 恒久的施設)であると見なされるので注意が必要です。
欧州では現地での物品の販売やサービスの提供が行われる場合、現地の該当加盟国にてVAT番号の取得の他、定期的なVAT申告を求めます。これらVAT番号の登録や申告は義務であるため、たとえ非EU企業である日本企業であっても、これらの税務上の義務から逃れることは出来ません。
その一方、非居住企業である日本企業の場合であっても、EU加盟国一カ国でのVAT登録や申告を行いさえすれば、ある国のVAT番号を利用することによって、それ以外の国でのVAT番号取得を回避することが可能です。
<当社サービス>
合弁会社は、日本企業が海外の現地企業と共に出資して会社を設立する海外進出方法です。出資割合はまちまちですが、産業により保護されている産業の場合、日本企業が過半数を取ることができないビジネスがあり国により異なります。(例:金融、防衛、教育など)
ウィキペディアには下記のように記してあります。
国家や企業が新規分野に取り組む場合において、単一組織で実施すると様々なリスクを抱えることから、複数の組織が共同で取り組み、お互いの弱点を補うことでリスクの分散を図ると共に事業の成功の確度を増す効果がある。
企業活動における合弁事業は主に新規プロジェクトへの参入や海外に新規進出する場合の足場造りに多く用いられる。いずれの場合も特定の目的を達するために複数の企業が出資する新たな企業(合弁企業、合弁会社とも)を設立し、出資者の間で出資比率や収益の分配方法、企業統制の方法(どの企業が代表取締役を出すか、等)の取り決めを行い、これに基づいて実施される。合弁企業が株式会社であっても、外部からの新規出資者を募ることは極めて少ない。
合弁会社は現地パートナーのリソースを利用することができ、進出のリスクやコストを減少させることができます。ただし、株主間の意見の相違が生じる場合は問題となることがあります。
直接投資、完全子会社/現地法人(FDI)
完全子会社は、自社で外国法人を設立するか、外国企業の買収をすることにより取得できます。
コストとリスクは負担しますが、技術やノウハウの流出がありません。
加えて完全な子会社なので、自社で戦略をコントロールすることができます。
今回この記事でご紹介したように、海外進出には様々な形態があります。これらの全ての形態を理解し、ケースバイケースで異なる方法を駆使することができれば、海外ビジネスの成功率が高まるかと存じます。
ぜひ皆さまも自社に合った戦略で海外進出を進めていってください。