イギリスでは、EUを離脱した後も拡大生産者責任(EPR)の原則を維持しながら、独自の規制枠組みを導入しています。特に、2023年から段階的に施行されている**「パッケージングEPR制度(Packaging EPR)」**は、企業に対しより詳細なデータ報告義務を課し、リサイクル可能な包装の使用を促進するものです。本記事では、イギリスにおけるEPRの基本的な法的枠組み、企業の義務、罰則、そして具体的な実施状況について詳しく解説します。
1、 イギリスにおけるEPRの法的枠組み
イギリスのEPR制度は、EUの規制を基盤としながら、より厳格な国内ルールを追加した形で進化しています。特に、**包装廃棄物規制(Packaging Waste Regulations)**がEPR制度の中心的な法律として機能しています。
1.1. パッケージングEPR(Packaging EPR)制度
2023年4月より段階的に施行されているパッケージングEPR制度は、旧来の**パッケージング廃棄物規制(Packaging Waste Regulations 2007)**を改正・拡張したものです。この制度では、事業者の環境負担を増大させ、包装材の持続可能な利用を促進することを目的としています。
- 適用対象:年間パッケージングの取り扱い量が25トン以上、かつ売上高が100万ポンド(約1.8億円)以上の企業
- 主要な義務:
- 環境庁(Environment Agency)への登録
- 包装材の種類と量に関するデータの報告(2023年10月から義務化)
- パッケージングEPRの財政負担(2025年より適用予定)
- リサイクル可能な素材の使用促進
この制度により、メーカーや輸入業者は、リサイクルプロセスの資金を提供する責任を負うことになります。従来の制度よりも事業者負担が大幅に増え、特に小売業者やオンラインマーケットプレイスの運営者も対象となるため、AmazonやShopifyで販売する企業は特に注意が必要です。
1.2. WEEE(廃電気電子機器)規制
イギリスでは、**WEEE規制(Waste Electrical and Electronic Equipment Regulations 2013)**に基づき、電子機器販売者に対し廃棄物の適切な処理を義務付けています。これにより、メーカーや輸入業者は、電気電子機器の回収およびリサイクルプログラムに参加する必要があります。
- 対象となる電子機器:家電製品、情報通信機器、照明機器、医療機器など
- 主要な義務:
- 登録と報告義務(Producer Compliance Schemeへの加入)
- 消費者向けの回収システムの提供
- 適切なリサイクルと処分の実施
特にオンライン販売業者(Amazon、eBay、Shopifyなど)は、消費者が購入した電子機器のリサイクルオプションを提供することが求められます。
1.3. 廃バッテリー規制(Battery Compliance Scheme)
イギリスでは、Battery and Accumulator Regulations 2009に基づき、電池および蓄電池の適正処理が義務付けられています。事業者は、販売したバッテリーの回収と適切なリサイクルを行う必要があります。
- 対象:年間1トン以上の電池を取り扱う企業
- 主要な義務:
- バッテリーリサイクルスキームへの参加
- 無料回収システムの提供
- データ報告義務
オンライン販売業者も、バッテリーを含む製品を取り扱う場合は、バッテリー廃棄物の回収責任を負うことになります。
2、具体的なEPRの適用状況と影響
2.1. パッケージングEPRの実施と影響
2023年10月から、パッケージングEPR制度に基づくデータ報告義務が開始されました。
- 大手企業は、半年ごとに使用したパッケージ量を報告する必要がある
- 2025年からは、リサイクル費用負担の開始が予定されている
- イギリス政府は、リサイクル可能な包装の使用を促進するため、プラスチック包装に対する追加課税(Plastic Packaging Tax)を実施
特に、Amazon UKでは未登録の販売者のアカウントを制限する措置を導入し、ShopifyなどのプラットフォームもEPR登録の義務付けを進めています。
2.2. WEEE規制の強化と市場の影響
近年、**環境庁(Environment Agency)**はWEEE規制の執行を強化しており、未登録の企業に対して罰則が適用されるケースが増加しています。特に、オンラインマーケットプレイスを通じて販売する企業は、適切な登録とリサイクル義務の履行が求められます。
2.3. バッテリー規制の厳格化
イギリス政府は、電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの普及に伴い、バッテリーのリサイクル基準を強化する方針を示しています。特にリチウムイオン電池の取り扱いについては、今後さらに規制が厳しくなる見込みです。
特に、EPR登録を怠った企業には厳しい制裁が科されるため、早急な対応が求められます。
3、イギリスのEPR規制とEU加盟国の相違点
イギリスのEPR規制は、EUのEPR制度を基盤としつつも、独自の特徴を持っています。EUでは**「包装および包装廃棄物指令(Packaging and Packaging Waste Directive: PPWD)」を基に、各国が独自のEPR制度を導入しており、規制の一部は共通しています。しかし、イギリスではEU離脱後の規制改正**により、いくつかの重要な相違点が生じています。
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パッケージングEPRの運用開始時期と負担の仕組み
EU加盟国の多くでは、EPRによる財政負担(エコ・コントリビューション)はすでに制度化されており、各国が異なる料金体系を設けています。一方、イギリスでは2023年10月にデータ報告義務を先行導入し、2025年からエコ・コントリビューションが本格適用される予定です。このため、イギリスで事業を行う企業は、短期間での適応が求められています。 -
EU加盟国よりも厳格な罰則
イギリスではEPR違反に対する罰則がEU加盟国より厳しく設定されており、最大25万ポンド(約4500万円)の罰金が科される可能性があります。EU加盟国でも罰則は存在しますが、多くの国では初回違反に対する警告措置が設けられており、いきなり罰金が科されるケースは少ない傾向にあります。 -
プラスチック包装税(Plastic Packaging Tax: PPT)の導入
イギリスでは2022年4月より**プラスチック包装税(PPT)**が導入されており、リサイクル材の割合が30%未満のプラスチック包装には、1トン当たり200ポンド(約3万6000円)の課税が行われています。EUには類似の規制(EUプラスチックリサイクル目標)はありますが、イギリスのPPTのような直接的な課税は存在せず、より財政的な負担が大きいことが特徴です。 -
オンラインマーケットプレイスの責任強化
EUのEPR制度では、プラットフォーム事業者に対する義務が近年強化されつつありますが、イギリスではすでにAmazonやeBayなどのオンラインマーケットプレイスがEPR登録義務を厳格に施行しています。例えば、Amazon UKでは、EPR登録をしていない販売者のアカウントを制限または削除する措置を積極的に取っています。これは、EU加盟国のマーケットプレイスと比べて、より厳格な対応であるといえます。 -
WEEE規制・バッテリー規制の執行強化
WEEE(廃電気電子機器)規制やバッテリー規制は、EUとイギリスで基本的な枠組みが共通しています。しかし、イギリスでは特に環境庁(Environment Agency)が未登録事業者を積極的に監視し、罰則を強化しています。一方、EU加盟国では、リサイクル事業者との協力による柔軟なコンプライアンス手続きが整備されている国も多く、イギリスより規制の適用が緩やかです。
まとめ
イギリスのEPR制度はEUの規制を基にしながらも、罰則の厳格化や新たな課税措置の導入、オンラインマーケットプレイスの監視強化など、より厳しい対応を求める傾向があります。そのため、EUとイギリスの両方で事業を展開する企業は、各国の制度の違いを理解し、コンプライアンス対応を分けて行う必要があります。
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注記: このコラムは情報提供を目的としたものであり、法的助言を提供するものではありません。EPRまたはGPSRへの準拠については、専門家にご相談ください。