5. 納税義務者
リバースチャージとは
リバースチャージ制度
EUでは、リバースチャージ制度という制度があります。
通常、課税売上を計上する資産の販売者や役務の提供者(いわゆるサプライヤー側)は、販売先(いわゆるクライアント)に対して付加価値税を課税し、徴収する義務があります。また、徴収したVATを各国の税務署に納付しなければなりません。
リバースチャージ制度は、この納税義務が資産や役務の提供者(サプライヤー側)から、資産の取得者または役務の受益者(クライアント側)に転嫁される制度です。すなわち納税義務者が移動する制度となります。リバースチャージとは、課税取引であるものの、納税主体が本来サプライヤー側であるものを、受け手側が納税主体となる取引です。
例えば日本企業からEU企業に対してのサービス提供等の場合にはこれらのリバースチャージの適用が認められます。または、国外事業者による資産の譲渡や、建設作業などの特別の取引に係るリバースチャージなど、多岐に亘ります。
なお、リバースチャージは、国によってその対象も異なります。
リバースチャージを利用する場合は、下記の対応を実施する必要があります。
EUVAT指令に基づいたインボイス発行義務
リバースチャージの文言及び根拠条文番号を記したVATインボイスを発行する必要があります。また当該VATインボイスは英語または現地語で作成される必要があります。(参照:インボイス記載項目)
- VATインボイス上には、税抜金額と税込金額を記入する必要があります。
- VATインボイス上には、販売相手の企業のVAT番号や住所、企業名等記載する必要があります。
- 課税対象活動が発生してから、国ごとに設定されている日付以内にVATインボイスを発行する必要があります。
VAT登録・申告義務
- ある取引(例:役務の提供)がリバースチャージの該当取引であるからといって、別の取引(例:資産の提供や、欧州域内の自社資産の移動、欧州域内での物品販売等)ではリバースチャージの適用がなされず、現地でのVAT登録が必要となる場合があります。
- VAT登録を一度したら、定期的な税申告は必須になります。具体的にはフランスは年間12回、ドイツは年間13回、オランダは年間4回、等です。
- リバースチャージの適用がされたからといって、VAT登録・申告義務が無いとは言い切れません。このため、一つの取引だけでなく全ての取引を確認する必要があります。
- また、リバースチャージが使える場合でも、VATインボイスの形式を満たしたインボイスでなければなりません。このため、事前に自社取引に即したVATインボイスについても欧州VATの専門家と準備する必要があると思われます。
イントラスタット申告義務、EC売上リスト申告義務
- リバースチャージ制度を利用できる取引であるからと言って、統計上の申告であるイントラスタット申告やEC売上リスト申告は異なります。このため、リバースチャージ制度を利用できる取引であっても、これらの申告義務が満たされているかも確認する必要があります。
ペナルティ
- リバースチャージが掛かると思って、VAT登録・申告義務が発生しないと思ってみたものの、実際はリバースチャージが掛からずVAT登録・申告義務やイントラスタット申告義務やEC売上リスト申告義務が発生している場合もあります。
- このような場合、過去に遡って各種修正申告を行う場合、多額のペナルティが発生する場合があります。
- これに加えて、過去の取引のインボイス発行は、それ自体もペナルティ対象ですが、クライアント企業側での修正申告となる場合もあります。このため、取引前に、どのようなインボイスを作成するべきか、どのような文言を記入すべきかを欧州VATの専門家と相談されることをおすすめします。