AppleとAmazonの追徴税を欧州委員会(EC)が発表しました

ECはAmazonに追徴税を課した(2017年10月4日)

欧州委員会はAppleとAmazonに多額の追徴税を課す決定を2017年10月4日に行いました。

欧州連合では2014年6月から多国籍企業の租税回避問題に関して調査を介しており、以前よりアイルランド及びルクセンブルクが実施している特定企業への優遇措置は「国からの補助」に該当し、EU域内での適切な競争を阻害しているという可能性があり、これに該当する場合、優遇額を返還請求するとしていました。その際ターゲットになっていたのが、GoogleやAmazon, Appleと言った米国の大手IT企業でした。なぜならこれらの大手IT企業は節税スキームを駆使して、米国での税支払を削減する一方、欧州においても大幅に削減するよう巧妙にタックスプランニングを選定、実行しているからです。

今回の欧州委員会の決定はこの調査からの流れを汲んだ決定となります。

 

米Appleとアイルランド政府に対する措置

米Appleに対しては、欧州委員会は昨年より、アイルランド政府がApple社の税金を不当に優遇していると判断し、アイルランドに対して130億ユーロ(約1兆7000億円)もの追徴税をAppleに課すように既に要求していました。しかし、この追徴税をアイルランドが依然徴収していないということで、欧州委員会はアイルランド政府を欧州司法裁判所(ECJ)に提訴すると発表しました。

アイルランドは、Google等が行う国際的な税務最適化スキーム『ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ』という節税手法を行う上で重要な役割を担う国です。ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチは、その名の通り、アイルランドの法人2社によりオランダの法人を挟む(サンドイッチする)ことにより節税を実現しています。

2012年のブルームバーグの記事によると、ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ手法による節税により、Googleは2011年だけで約2000億円の法人税支払いの免れたとのことです。同様に米大手IT企業のみならず、中小企業であっても、同様のスキームを駆使しています。

また、今回の米Apple社への130億ユーロ(約1兆7000億円)もの追徴税の再請求は、欧州委員会がクロスボーダーでの税の回避策への積極的な取組を意味しています。いずれにせよ、日本で争われた巨額税務裁判で有名な武富士事件で1600億円、IBM裁判でも4000億円ですから、1兆7000億円は歴史的に見ても最高額の税務裁判となることでしょう。

 

(参照)

IBMの訴訟防衛崩せず 巨額税務裁判で国税側敗訴 米当局も対応鈍く(日本経済新聞)  

武富士元専務への課税取り消し 2000億円還付へ  最高裁判決(日本経済新聞)

なお、下記に欧州委員会が2016年に発表した際の動画を掲載します。 

(出所:Elite NWO Agenda

 

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米Amazonとルクセンブルク政府に対する措置

米Appleとアイルランドに対してと同様、欧州委員会は以前より、ルクセンブルク政府がAmazonに対して優遇的な措置を国家単位で行っており、特定企業に対する税の優遇措置を実施しているという指摘を行っていました。また当該優遇額は2006年5月から2014年6月の8年間で約2億5000万ユーロ(約330億円)にも上るとのことでした。

米Amazon子会社のAmazon EU社(ルクセンブルク)はほとんどのAmazonの欧州での収益を計上しており、同時に別のルクセンブルク法人へ多額のロイヤリティを払うことにより、課税所得を減額することが出来るため、法人税の支払いを免れているとのことです。そしてこれらの措置はルクセンブルク政府によるタックスルーリングによってなされているとのことです。

そしてこの結果、欧州域内で発生したAmazonの利益はルクセンブルクで記録されるものの、ルクセンブルクでは殆ど課税されていないため税の回避となっていると指摘されていました。

 今回は、こちらに対しても、欧州委員会はルクセンブルク政府を欧州司法裁判所(ECJ)に提訴すると発表しました。ルクセンブルグがAmazonに対して優遇した額も、約330億円とかなりの規模になっています。

 

統一的なVAT制度の提案

Apple, Amazonに関する決定とあわせて、欧州委員会ではEU域内の売上に対してはEU域内で納税する旨を要請しました。

「EU設立後25年経過しても、企業や消費者はクロスボーダー取引の際、28の異なるVAT行政に悩まされている。」とピエール・モスコビッシ(欧州委員会経済及び金融、税、通関委員)は言及しました。

そして、EU全体でVATの徴収を統一的に行うとする大規模なVAT制度改革案を提案しました。当提案では、現在クロスボーダーB2B取引では免税となっているものを、課税とし、加えて現在欧州連合で電子サービス等で採用されているワンストップショップ制度のような制度のようなポータルシステムを利用することで一箇所で申告できるような制度を提案しました。

この提案が採択されれば、欧州連合のVAT税収が年間1500億ユーロ程増えると欧州委員会は推計しています。なお、そのうち500億ユーロはクロスボーダーVAT詐欺によるものであるとも推計しています。

また同氏は同時に、「2022年までにEU加盟国は域内域内のクロスボーダーVATを国内処理とすべきである」と述べています。

 

グローバルでのタックスプランニングが出遅れている日本企業

今回の欧州委員会委員の提案により、今後は欧州VATにおいても国ごとに異なる対応というより、より簡素化され、一本化される傾向になろうと思われます。すなわち、今までであれば複数国で税登録を行う必要があった企業であっても、将来的には1カ国のみで登録・申告を行うようになるのかもしれません。

いずれにせよ、AppleやAmazonのケースを鑑みるに、税の削減に貪欲な米国企業の一面を見ることができます。また、税の削減のために各国の税法を組み合わせる手法については、人によっては(または日本企業からは)感情的に不公平だという思いがあるかもしれません。

一方、ことグローバルな税務戦略については、米国企業の節税策に日本企業は追いついていないと感じられます。このタックスプランニング力の弱さが日本企業の競争力の弱さであると指摘する識者もいます。

下記(上図)にPwC米国が法人税の実負担に関する調査資料を掲載します。
こちらによると日本企業が世界での租税回避が最も出遅れているという結果が出ています。下記(下図)では財務省HPに掲載されている主要国の法人税率を記します。

こちらではアメリカの高率の法人税率が目を引きます。しかし、このように世界で最も高率な法人税を様々な節税策により大幅に引き下げるアメリカ企業の戦略性の高さが伺えます。

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(出所:PwC "Global Effective Tax Rate Study")

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(出所:財務省)

 

最後に

今回、先週末の2017年10月4日に欧州委員会で発表された内容をご紹介しました。現在世界中の企業が国際的に税を回避したスキームを検討し、実際に実行しています。そして、AppleやAmazonは巨額の税務メリットを享受しています。

今回のAppleやAmazonへの措置が、税の濫用的な回避方法を行う企業の、ごくある地域での氷山の一角を狙い撃ちしただけなのかもしれません。租税回避行為のなかには、合法的なもの、濫用的であると見なされるもの、明らかな脱税行為であると見なされるものとあります。また欧州のみならず世界各地で様々なタックスプランニング手法があります。いずれにせよ日本企業ではことグローバル税制では戦略的なタックスプランニング力が依然弱く、ここがアメリカ企業との企業競争力の差となっていると感じられます。

当社でも間接税を中心とした、コスト削減やグローバルタックス戦略などの戦略策定を行い、またパートナー企業である世界100社以上の提携ファームと戦略実行を支援しています。ご興味のある方は当社営業までご連絡くださいませ。 

  

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